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障がい者雇用対策に注目  

 松田 昇

 

 地方公務員の試験を受け、いくつかの自治体で面接を受けた障がい者が、「ある自治体でははじめから採用するつもりはないと感じた」と話してくれたことがある。別の自治体でも、車の免許を取ることは難しい状態なのに「外回りはしてほしい」と言われたという。結局その人は公務員をあきらめ民間の会社に就職したが、その会社はその人のために階段に手すりをつけ、他にも働きやすい環境をつくる努力をしてくれているという。

 特別支援学校を卒業して一般就労した人たちがいちばん悩み、行き詰まって離職を余儀なくされるのは職場での人間関係だ。学校時代は仲間と楽しく過ごしていたのに、就職すると仲間はできず、特別なケアがないと孤立していくのは目に見えている。一般就労への架け橋となるはずのA型の就労支援事業所に通う人たちが、なかなか巣立ちしたがらない実態があるというのも頷ける。

 中央省庁での障がい者雇用数の水増し問題が、連日、新聞の紙面を賑わしている。そして問題は中央から地方にも波及してきている。法定雇用率を達成していない企業は不足人数一人につき50,000円の障害者雇用納付金を納めなければならないが、国や自治体にはその義務はない。それは、行政機関が率先して障がい者を雇用しないと民間に示しがつかないということだろう。だから国や自治体が障害者雇用率を達成していないということは、あり得ない。厚生労働省から「あり得ない」ことを押しつけられた他の省庁は、なんとかするために今回の水増し問題が起きたように思う。でないと、本人も知らないうちに障がい者の数のうちに入れることなどしないはずである。

 こうした数合わせは「法定雇用率」という数値目標を立てたが故に起こった。就活のときに障害者手帳を取得するよう言われ、気が進まなかったが取ったところ内定が出るようになったという障がい者もいる。また法定雇用率を維持するためだけに雇われていたと言う障がい者は「私は(法定雇用率という)数のためにここにいるんだ、と思った。『座っているのが仕事』と言われ続けてやりがいを感じられるわけがない」と言う。

 こうした問題が取り上げられると、ネット上に本音が飛び交う。「職場に負担がかかる障害者雇用などやめるべきではないか」「きれいごとだけではやっていけない」と。2年前の津久井やまゆり園事件のときと同じである。世の中にはこうした差別意識がまだまだ多くある。

 障がい者を雇うということは、仕事がありさえすればできることではない。障がいのない人の側が、障がいのある人を含めたチームとしてどういう職場環境をつくるかという意識を高めることが求められる。10月には対策を打ち出すと国は言っている。単なる数合わせに終わらせないように注目したい。