松田 昇
表題をもう少し言葉を足して言うなら「さまざまな健康に関する取り組みが、この長寿社会を産んだわけではない」である。
テレビでは毎日のように健康に関する番組があり、高血圧には○○を食べると良いとか、糖尿病を防ぐには△△を食べると良いとか放送されると、翌日スーパーではその商品が飛ぶように売れる。**県の##村には元気なお年寄りが多いのは、地域でのこんな取り組みがあるからと紹介されると、同じようなことをすれば自分も長生きができるような気になってくる。
健康によいことをすれば長生きにつながるというのは、当たり前のようだが、どうやらそれだけではないらしい。そもそも日本人は喫煙率も飲酒率も高く、睡眠時間は短い。テレビで見るような一部の人たち以外は、決して健康的な生活を送っているわけではないという。それでもトップレベルの長寿国であるのは、何か別の要因があるのかもしれない。
そこでハーバード大学のイチロー・カワチという先生が、他人を信頼している人の割合と、その国の平均寿命の関係を調べたところ、相関関係があったという。つまり、まわりの人たちへの信頼度の高い国ほど、長寿国だという。日本がこれほどの長寿国なのは医療や福祉の力もさることながら、日本人が持っている相手を信頼し、お互い様と考える度合いの高さが大きな要素としてあるという。
昨今の相次ぐ事件からはなかなかそうは思えないが、それでも日本人はおたがいを信頼し合う社会の中にいるらしい。確かに外国旅行の手引きでは、まずはスリや置き引き、強盗などの犯罪に合わないように細心の注意を払うように説かれている。社会を信じるなと言っている。
ともあれ、人を信じることが生きることにつながっていくという話は、興味深い。信頼はつながりを生み、不信は分断を生じる。世界は今、おたがいを信頼し合えない分断の時代に入っている。人とつながることが生きる糧となるという視点で毎日の営みを点検し、そうした事実と実践を積み上げることが私たちのできることか。