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人工知能はナショナリズムに勝てるのか

 松田 昇

 

  2045年問題というのをご存じだろうか。昨今のIT技術の進歩はめざましく、コンピュータの情報処理能力は、1年で2倍、2年で4倍、3年で6倍という直線的な伸びどころではなくて、1年で2倍なら、2年で2の2乗倍、3年で2の3乗倍というふうに、指数倍数的に進歩しているという。これで計算すると、10年で1000倍を超える。そのIT技術の目玉は人工知能で、人工知能を搭載したおしゃべりロボットが、すでに保育所や高齢者の施設で活躍している。その人工知能の技術が指数倍数的に進歩すると、やがて人間の知能を超えてしまう日が来るという。それが2045年だと予測されている。

 思い出すのは「2001年宇宙の旅」という映画に登場する人工知能「HAL(ハル)」だ。進化したコンピューターと人間の闘いを描いたSF映画でご覧になった方もいるかと思う。本当にそんな時代が来るのかどうか、そんなことはないと思いつつ、もしかしてとも思う。

 話は一転するが、今世界は非常に危険な状況だと私は感じている。シリアの内戦とそれに乗じたテロ組織ISの活動により多くの難民がヨーロッパに押し寄せてきている。人道的に受け入れなければという一方で、治安悪化を危惧して難民を拒否しようという動きもある。昨年フランスでは、地方議会の選挙で極右政党の国民戦線があわやいくつかの地方を制するというところまでいった。今アメリカでは、共和党の大統領候補指名選挙で「イスラム教徒をアメリカから追い出せ」とか、「メキシコとの国境に壁をつくれ」と過激な発言を繰り返すトランプという男が抜け出ている。もし本当にこの男がアメリカの大統領になったら世界は大変なことになると、多くの人が不安を抱いているのではないだろうか。

 欧米のできごとは他人事ではない。日本でも、就任当初から憲法改正=9条廃止を言っていた安倍総理は、憲法解釈の変更という手を使って安保法制を通してしまった。ここへ来て憲法改正を真正面に打ち出した。今夏の参議院選挙の結果によっては本当にそうなりかねない。変更した憲法解釈に憲法を合わせようというのだから、本末転倒である。

 かつて石原東京都知事が、尖閣諸島を都で買い取ろうとしたので当時の野田首相が国有化したところ、中国が反発して今日の尖閣諸島を巡る問題に発展してしまった。石原慎太郎もトランプ氏と同様、過激で差別的な発言で知られたナショナリストである。

 こうしたナショナリズムが蔓延してくると世界は戦争へと突き進むことを、私たちは歴史から学んできた。ヒトラーやスターリン、ポル・ポトのような過激な独裁者に政治を任すと大きな虐殺が起きた。およそ国が一人の人間の意志で動かされるということがあってはならない。こんな状況で2045年を迎えたとき、人工知能はどういう答えをはじき出すのだろうか。いっそのこと、ナショナリズムや個人の思想信条を排した人工知能に世界を任せてしまった方が平和なのか、それとも愚かな人類は全滅させられるのか。