自分のお金を自分で使う  

松田 昇

 

 移動支援というサービスを使って外出を繰り返すと、毎回同じパターンの活動であっても少しずつ変化が見えてきます。

 グループホームで生活をしているTさん(67歳)は、電車が大好き、鉄道に関することはTさん自身が小さかった頃のことから含めて、本当によく知っています。サンダーバードとしらさぎはボディのラインの色が違うということはまだ序の口、北陸トンネルができる前に走っていた機関車やディーゼル車の型番号から駅名まで、まるで歩く鉄道百科のようです。

 Tさんは、7年前にグループホームに入居し、そこから作業所に通うようになりました。そして休日に買い物に行きたいということで、あんとふるを利用するようになりました。大好きな鉄道に関する雑誌や、お菓子、飲み物、日用品などの買い物をしたり、コーヒーを飲みながら一服することもあります。

 ヘルパーと外出するようになった最初の頃、財布はホームの世話人さんからヘルパーに預けられていました。Tさんに、自分で持ってはどうですかと言うと、笑いながら「いやあ」と言い、ヘルパーに持っていてほしいと言われました。それで買い物のときはレジでTさんにお金を渡し、それで支払ってもらっていました。

 そんなTさんでしたが、外出を繰り返すうち、自分で財布を持つようになりました、それでもレジではヘルパーに財布ごと渡して、そこから必要なお金を受けとって支払いをしていました。それがある日から、自分で財布からお金を出して支払いをするようになったのです。ヘルパー任せだった支払いが、この日から主体的な活動に変わったのです。「自分のお金を自分で使う」当たり前のことのようですが、そのことの意味はとても大きいと言えます。