ホームドアよりも

松田 昇

 

 外出支援で電車で出かけ野々市駅で帰りの電車を待っていたときのことです。駅員さんが、白杖を持った視覚障がいの男性をホームに案内してきました。白杖を使いながら、階段なども上手に上がられたので、一人歩きにも慣れている方のように見えました。しかし駅員さんにすれば、ホームからの転落事故がよくニュースになっていることもあり心配だったのでしょう。手を引いてホームまで連れてこられました。新興著しい野々市といえども、駅員さんは上下の改札口に1人ずつしかいません。もうすぐ電車が来る時間帯に改札口にいないわけにもいかず、駅員さんも急いでいる様子に見えました。

 そこで、「ここから先は、私が一緒にいますので」と駅員さんに申し出ると、「米原方面に行かれるそうです。お願いします」と改札口の方に戻っていかれました。とりあえずベンチに座っていっしょに電車を待ちました。「このホームには自動販売機はありませんか?」と聞かれたので、ないことを伝え、どこまで行かれるのかを尋ねました。「大阪でも行ってこようかな」とひとり言のように言われ、カバンの中からイヤホンを出して耳に当てられたので、「気ままに旅がしたいのかな、あまりしつこく聞かれるのもイヤかな」と思い、それ以上は話しませんでした。

 手引きもいらないということでしたが、電車がホームに入ってきたら、やはり乗降口までは案内しました。降りる人がいることを告げ、ぶつからないようにしました。そして空いている席まで案内すると、座っていた人が席を譲ってくれたので、私も、私といっしょに出かけていた人も座ることができました。

 小松駅が近づき、特急に乗り換えるのならと思い、時刻表をもっていたので「乗り換えをご案内しましょうか?」と話しかけると、けっこうですという答え。確かに車内アナウンスでも言っているのでお節介かなと思いました。そしてその方は小松駅に着くと、「ありがとうございます」と言って降りていかれました。私たちは加賀温泉駅まで行くので、車内からその方が特急に乗り換えるまでどうされるのかなと少し気になって見ていました。すると、白杖をつきながら、壁などにぶつかると手で触って何かを確かめている様子が見えました。それ以上は、柱の陰になって見えませんでしたが、特急(しらさぎ)が来て発車したあと、ホームにその人の姿はなかったので、どうやら無事に乗っていかれたようでした。

 駅のホームに駅員さんがいて、電車の出入りやホームの安全を確認するという光景は、頭の中に映像として浮かびますが、実際にそういう光景を目にすることはほとんどありません。金沢駅でさえ、交代の乗務員と、あらかじめ連絡されている障害者の乗降の手伝いの駅員さん以外見かけません。JRもぎりぎりのところの人員でやっているのだなあと思います。ホームドアをつけたらどうかという議論もありますが、すべての駅にとはいかないでしょう。それは乗降客の少ない駅から始めてもらって、ホームにほかに人がいる駅では、居合わせた人が障がい者に声をかけるような「空気」にならないものかと思います。どうしたらそんな「空気」が生まれるのか、みなさんいっしょに考えませんか。