一人での外出     

松田 昇

 

 移動支援などでいっしょに外出していると、時々一人で外出している障害者に出会います。車椅子の人や、視覚障がいの人は一目見て障害者だと分かるのですが、知的障害の人がそうだと分かるのは、その人の言動によります。それは、障がいのない人が多数の社会の中ではやはり「目を引く」言動だからです。逆に言えば、目を引くようなことのない人は障害者だと気づかれずに街を行き来しているのでしょう。

 その「目を引く」言動がその場にいる人たちにどう受けとめられるのかということは、そういう人を見かけたときに気にかかるところです。

 ショッピングセンターから循環バスに乗ったときのこと。かつて支援学校で、担任ではなかったけれど授業で関わったことのあるHさんといっしょになりました。名告ると思い出してくれ、嬉しそうに挨拶してくれました。お化粧もしてスマホをいじっている姿は、今時のお嬢さんです。でも、ちょっと太めの体型から発せられる声は甲高く、目を引きます。バスの中には、ほかに年配の女性の方が二人おられました。自宅近くのバス停に近づくとHさんは降車ボタンを押し、そして降りていきました。下り際、Hさんはお金を入れるとその甲高い声で大きくはっきりと「ありがとうございました」と運転手さんに言って下りました。それはかなり「目を引く」言動でした。同乗していた二人の年配の女性が顔を見合わせて、「元気のいい人やね」というのが聞こえました。狭いバスの中という空間が、あたたかい空気につつまれているように感じました。

 またあるカレーショップに利用者さんといっしょに入ったときのこと。店の隅の4人掛けのテーブルに1人で座り、カレーを食べている30歳ぐらいの男の人がいました。何となく気になったのは、どこかで見かけたことがあるような気がしたことと、その食べ方からでした。それはもう一さじ一さじ、ていねいにカレーライスをすくい、ゆっくりと味わって食べているように見えました。そして後から入った私たちとほぼ同じ頃に食べ終わりました。この店は料金が前払いなので、食べ終わるとすぐに店を出られるのですが、その人は席を立つと、レジと厨房の方に向かって気をつけの姿勢をし、「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」と一礼をしながら言ったのです。お店の人たちは何も言いませんでしたが、その言葉を嬉しく受けとめている様子が見られました。

 ほかにも、独り言を言いながら電車の中を行ったり来たりする人や、もてなしドームの鼓門の柱の下で大の字になって寝ている人など、それぞれのこの地域の中で自分らしさをいっぱい発揮しながら生活している姿を見かけます。それをどう受けとめるかは、まわりの人の問題なんだと改めて思います。