電車好きがきっかけで   

 松田 昇

 

 利用者さんで電車の好きな人がたくさんいます。一口に電車が好きと言っても、いろいろです。電車の形そのものにとても興味がある人、時刻表を見るのが好きな人、駅のアナウンスが好きな人、電車に乗って外の景色を見るのが好きな人などなど。

 Yさんは、いろいろな電車が駅に入ったり、駅から出たりするのを見るのが好きな人です。小松駅から金沢駅まで電車で出かけ、金沢駅のホームで電車の出入りを見続けます。11時台の金沢駅は、かなり頻繁に電車が出入りし、見ていて飽きません。入ってくる電車があると「☆◎#&@◇?金沢行きー(うまく聞き取れずすみません)」、出て行く電車を見ると、「大阪行きー、あっちいけー」と言っています。

 4月とは言えまだホームに吹く風の冷たい日、ホームの待合室から電車を見ていました。電車が出入りするたびに発する言葉が、狭い待合室ではけっこう響きます。すると、待合室で電車を待っていた中年の男性が「電車、好きなんですか?」と話しかけてきました。Yさんははずかしいのか全く答える気配がなく、ヘルパーがその人と話をしました。

 七尾線の電車を待っているというその方は、お子さんが金沢市内の特別支援学校に通っていて、やはり電車が好きなんだと言うことでした。家で、テレビを見ていて電車が走っているシーンを見るとくぎ付けになるということ、家族はその時チャンネルを変えないようにしているというようなことを話されました。

 Yさんは今、ガイドヘルプを使ってこうやって電車を見に来ているんですという話をすると、「そういうサービスってあるんですか?」「能登の方にもありますかね。金沢から来てくれますかね」とおっしゃいます。確かに、小松でもあんとふるは移動支援の事業所としては2カ所目ですから、能登の方はどうでしょうか。

 七尾線の電車の発車時刻が近づき「じゃあ、おじさん行きますね。電車楽しんでください」とYさんに向かって声をかけて、その方は待合室を出て行かれました。Yさんは出入りする電車に夢中で答えませんでしたが、その声はきっと届いていたと思います。