直接の出会いを    

 津田 康則

 

  Iさんは毎週月曜日の午後、プールに行きます。

  Iさんはプールに入る前にしっかり時間をかけます。先ずは小プールに行き、ベンチに腰掛けます。それから、プールの周りを走り、いろいろな所を触り、小プールのプールサイドから片足を入れ、プールの底を足でどんどんと踏み鳴らします。それから小プールの中を歩き、大プールに行きます。階段から入るときもあれば、ハシゴから入るときもあるし、コースのところから直接入るときもあります。どれを選ぶか決まるまであっちへ行ったりこっちへ行ったりして、ようやく入ります。たくさん人がいるときや物の位置が変わっているときは、落ち着かず、心が落ち着くまでさらに時間をかけます。ヘルパーは本人がその気になるまでじっくり待つことにしています。

  そんな様子を周りの利用者さんたちは静かにいつも見守っていてくれて、ようやく入ると私たちに「今日は時間がかかったね」とか「(小)プールではあんなに楽しくしているのに、早く入れるといいね。」とか声をかけてくれます。

  入るととても楽しそうで、潜ったり、仰向けに浮いたり、最近は犬かきで泳いだりもします。また、1コースから6コースまでコースロープをくぐりながら横切り、また戻ってきます。

  夏休みに入るとプールは子どもたちでいっぱいで、歓声が鳴り響いてました。いつもと違う状況に、ヘルパーはIさんが落ち着きがなくなるのではと心配です。子どもたちで混んでいるコースを避けて、別のコースへ行くこともありました。

  先日、小学校高学年と思われる女の子たち5人が小プールで水遊びをしていました。最初は遠くでIさんの様子を眺めていましたが、Iさんがようやく小プールに足を入れ、どんどんやり始めると誰が声をかけるともなく少しずつ近づいてきました。そして、すぐ近くで潜ったり、泳いだりし始めました。彼女たちはIさんが気になったのでしょう。でもIさんはそれを気にすることもなく、いつものペースです。そうやって小プールにいる間は、一定の距離を保ちながらいましたが、大プールに移動するとついてくることはありませんでした。

 女の子たちは遠くで見ているだけではなく、近くに行くことで何かが起こるかもと思ったのかもしれません。どういうことを期待したかはわかりません。双方にとって楽しいことかもしれないし、もしかしたら興味本位の一方的な楽しみかもしれません。ただ、この子たちは離れているだけではなく、近づくことで知ろうとしたのだと思います。見て分かろうとしただけでなく、近づいて分かろうとしたのかなと思います。ヘルパーは、本人が嫌なことは防がなけれないけませんが、そうでないと感じた時には、双方の気持ちがすっきりするような関わりが出来れば良いなと改めて思いました。