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巣といえば

松田 昇

 

 4月の風の強かったあくる日、駐車場の隅に木の枝や枯れ草が多量に溜まっていた。どこから飛んできたものかと思い周りを見渡したが、草を刈った跡等はない。ふと上を見上げると、電柱に鳥の巣の壊れたものが見えた。そこにカラスが飛んできた。前日の強い風で、作りかけていた巣が飛ばされたようだった。

 せっかく作りかけていたのにそれは残念、懲りずにまた同じところに作りはじめるとはえらいもんだ、などとのんきに考えながら集めた枝等を持ち帰り始末することにした。ちょうどその頃テレビでカラスが人間を襲ってくるというニュースを見た。巣に卵を産み雛がかえると、雛を守るため親は巣の近くに来た人間を襲うことがあるそうだ。のんきなことを言っておられなくなった。

 集めた枝をはさみで短く切っていたところ、いろいろなことに気づいた。直径1センチほどの太いものもあれば、細くてしなやかなものもある。木の枝ばかりでなく、つるや枯れ草もある。これらを絡み合わせて崩れない巣を作るのかと感心しているうち、太い枝も手で折れることに気がついた。カラスがわざわざ枝を適当な長さに折り取ってくるには、乾燥した木でなければダメだということに気がつかなかった。

 「生きものがつくる美しい家」(鈴木まもる/株式会社エクスナレッジ)によると、産まれてすぐに歩き始められる動物は巣を作らない。巣は本来、子を産み、育てるためのもので、住んでいる地域の気候や天敵に応じて実にいろいろな形をしている。驚いたことに、くちばしと足を使ってつるなどを上手に編んでいく鳥や、ダミーの入り口をつくる鳥など実に多彩である。彼らはこうした技をどうやって身につけ、代々受け継いできたのだろうか。

 学生時代、昆虫の生態を研究している友人に聞いた話だが、あるハチ(名前は忘れた)はアシなどの枯れた茎に奥から順に卵を産む。1個ずつ産み、少しの餌も置いて仕切りを作って巣を離れる。奥の部屋から順にふ化した幼虫は、ある程度大きくなると仕切りの壁を破って外に出てくる。その時、まだ成長していない幼虫のいる部屋の壁は、ちゃんと直して出てくるという。

 カラスが作り直した巣は、後日電力会社によってあえなく撤去された。